
Highlights
新作発表会
椎名弘子
「ASSEMBLING EMPIRE」
2025年
二連作、インク、コーヒー、アクリル、色鉛筆、紙
121 × 182 cm(全体)
91 × 121 cm(各パネル

『ASSEMBLING EMPIRE』は、無数の建築的断片によって構築された広大な想像上の都市を描いている。それぞれの要素は驚くほど緻密に描き込まれ、幾重にも積み重なることで密度の高い都市景観を形成している。特定の場所を描写するのではなく、椎名弘子は記憶や文化的参照、そして想像上の建築がひとつの絶えず拡張し続ける環境へと収束する架空の世界を組み立てている。
本作の豊かな視覚表現は、その技法と切り離して考えることはできない。インク、コーヒー、アクリル、色鉛筆によって制作された画面は、線やテクスチャー、そして色調の微細な変化を丹念に積み重ねることで形成されている。インクは構図を支える精緻な建築描写を担い、コーヒーは繊細な染みや有機的な色調の変化をもたらしている。アクリルはコントラストや視覚的な強調を生み出し、色鉛筆は細やかなニュアンスやディテールを加える。これらの素材は互いに作用しながら、精密さと不安定さ、秩序と即興性のあいだを行き来する画面を生み出している。

二連作である本作は、一枚の画面の枠を超えて水平方向へと広がり、都市が画面の外側へと成長し続けているかのような印象を強めている。個々の建築物はそれぞれ固有の姿を保ちながらも、その集積によって形成されたより大きな構造体の中では切り離すことのできない存在となっている。その結果生まれる構成は、断片が積み重なりながら複雑な全体へと形づくられていく、絶え間ない構築のプロセスを想起させる。
また、都市を埋め尽くす建築的な密度は、その上部に広がる大きな暗闇の空間によって均衡を保たれ、空間的な奥行きだけでなく心理的な深みも生み出している。『ASSEMBLING EMPIRE』は単なる都市景観としてではなく、内なる建築として捉えることができる。そこには観察、想像、そして記憶から組み立てられた風景が広がり、緻密な描写は無数の印象を統合しながら、ひとつのまとまりを持ちながらも決して完成することのない世界へと変容させる手段となっている。


椎名は本作品について次のように述べています。
五感が拾い上げる形や文化や様式、
そして名も知らぬ事象や現象のすべてがひとつの大きな流れとなって、
夜の底で漂う霧のように私の内側へ押し寄せ混ざり合う。
そうして生まれる夢想の帝国は、静かに呼吸する生き物のように、
境界を曖昧にしながら無窮へと広がってゆく。
その国の中心で私は生きて死ぬまで、精神と無意識を編み合わせるようにして、
歪で脆弱な砂の城を、黙々と積み上げていく。
誰にも踏み入れられない孤独な王国を守るために、ただひとり残された者のように。


