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Rocks, 2025, coloured pencils on paper, 23 cm x 31 cm.jpg

バラス・スピロス

夏への憧れ

2025年12月02日(火)~14日(日)

11:00~18:00、月曜定休

 

本展では、ギリシャ出身のアーティスト スピロス・バラス(Spiros Baras) による、鉛筆ドローイングと数点の水彩作品を紹介します。

バラスのドローイングは、抑制された筆致と光に満ちた静けさの世界を描き出しています。テクスチャーのある紙に色鉛筆で丹念に描かれたそれらの作品は、重さや影、そして雑音を拒むような繊細さを湛えています。色彩は幾重にも重ねられた層の中で呼吸し、紙そのものが光を含むかのように見えます。

モチーフは、島の風景や建築の一部、親密な肖像、そして日常の穏やかな情景まで多岐にわたります。海、丘、肌、空気といった本質的なトーンへと還元されたイメージは、時を超えた静寂の中に浮かび上がります。光は拡散し、地中海的でありながら内省的で、登場する人物たちは記憶と夢のはざまに存在しているかのようです。

そのシンプルな構成の奥には、正確で繊細な感情の緊張が潜んでいます。わずかな憂愁と夏への憧れ——それは展覧会タイトル「Longing for Summer(夏への憧れ)」にも響き合う感情です。眠る猫、物思いにふける女性、遠くの丘に輝く教会——世界がゆるやかに歩みを止める瞬間を、観る者に思い起こさせます。

バラスの限られた色彩と平面的な構成は、初期モダニズムの感性を想起させながらも、彼自身の人間的で思索的な温かさに満ちています。彼の水彩作品もまた、光が一瞬世界を照らして消えていく、その儚さへの瞑想として見ることができるでしょう。

現代美術の文脈において、スピロス・バラスは独自の位置を占めています。華やかさや過剰なデジタル性、概念的な誇張から距離を置き、ドローイングを感覚的で瞑想的な行為として取り戻しています。

一見すると、彼の構図はミニマル・リアリズムやポスト・ミニマル的な具象に近いように見えますが、その本質は様式よりも詩的です。影の不在、色彩の節度、修道的ともいえる精密な筆致は、ポストフォトグラフィック・ペインティングやニュー・シンセリティ運動に通じる、親密さや触覚性、日常への回帰を思わせます。

控えめな家々、静止した身体、くつろぐ動物たち——それらのイメージは「静止すること」をひとつの抵抗として提示します。皮肉や喧騒、政治的スペクタクルに満ちた現代において、バラスは深く人間的な注意のあり方を育みます。ほとんど蒸発するような光の層が、記憶と場所が階層なく共存する思索の空間を生み出しているのです。

多くの現代画家が物質性を極端に追求する中で、バラスの制作は「引き算」によって特徴づけられます。空気や静寂、紙の呼吸そのものを作品の一部として取り込み、余白の中に生命を感じさせます。この点で彼は、ピーター・ドイグやジョルジョ・グリッファといった作家たち、さらには雰囲気とニュアンスを重んじる現代日本の画家たちと共鳴しています。

スピロス・バラスは、現代の視覚文化におけるひとつの逆流を体現しています。彼のドローイングは懐古ではなく、もう一度「見る」という行為を取り戻すための静かな提案です。ゆっくりと、やさしく、そして思いやりをもって世界を見つめ直すこと—それが彼の作品が私たちに促す眼差しなのです。

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バラス・スピロス

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1977年、ギリシャ・アテネ生まれ。ドローイングと水彩を中心に、知覚や空気感、そして日常に潜む繊細な存在感を探求するアーティスト。アテネのシビタニディオス校でグラフィックアーツを学び(2002–2005)、エーゲ大学でデジタルアートの認定を取得。その後、2010年代初頭より絵画制作と発表活動を本格的に始める。

2010年にはアテネのテクノポリスで開催された「35 Artists Exhibit Their Works on Global Poverty」展で、著名なギリシャ人作家たちとともに作品を発表し、初の公的な発表の場を得た。それ以降、3冊の書籍の挿絵を手がけ、作品は各地の公共空間にも展示されている。

 

2013年、シロス島に移住し、現在も同地でPlastico Café-Galleryを主宰している。このスペースは、アーティストや音楽家、作家、友人たちが集う独立した交流の場として機能し、キクラデス諸島の文化的ハブとなっている。

ヨーロッパの美術的伝統に深く根ざしながらも、バラスは日本美術から受けた重要な影響を強調している。交流や受容の経験について語るなかで、彼は日本との知的・感情的な関係を深く洞察し、自身の制作に新たな文脈を与えている。作品は浮世絵の美学的系譜の中に位置づけられると同時に、西洋モダニズムと日本的視覚哲学の対話の中に開かれている。

 

作家自身の言葉によれば、彼の日本文化との関係は、初期の誤解から始まり、やがて敬意をもって深く理解する段階へと発展していったという。刺青や春画を日常的な家の装飾と誤って想像していた初期の認識を正直に語るその姿勢は、異なる文化に向き合う外部者としての自覚と謙虚さを示している。彼にとってそれは文化の借用ではなく、学び、思索し、敬意をもって向き合う行為である。

バラスの歩みは、日本の版画に影響を受けた多くの西洋モダニストたちの軌跡を想起させるが、そのプロセスは現代的な感性のもとに展開されている。彼は形態の影響だけでなく、その背景にある倫理的・文化的な文脈にも目を向けている。

 

最終的に、彼の言葉はスピロス・バラスを「文化的共感のアーティスト」として浮かび上がらせる。彼のドローイングは注意深い観察の行為であり、日本へのオマージュは「見ること」そのものを愛のかたちとして再考する試みとなっている。

 

学歴
2002–2005 シビタニディオス校(アテネ)グラフィックアーツ専攻
エーゲ大学(ギリシャ)デジタルアート認定

 

主な展覧会
2025年 「Does Art Influence Everyday Life?」キクラデス・アートギャラリー(エルムーポリス、シロス)
2024年 「Syros Island」G.& E. ヴァティス・アートギャラリー(エルムーポリス、シロス)
2023年 個展「Drawings and Watercolours」Plastico Café-Gallery(エルムーポリス、シロス)
2022年 個展「Drawings and Watercolours」Plastico Café-Gallery(エルムーポリス、シロス)
2019年 個展「Retrospective」Plastico Café-Gallery(エルムーポリス、シロス)
2019年 「Awagami International Mini-Print Exhibition」インベ・アートスペース(吉野川、日本)
2018年 「Visual Approaches to Greek Poetry」アノ・シロス文化センター(アノ・シロス、ギリシャ)
2016年 「Immersion into Digital Culture」キクラデス・アートギャラリー(エルムーポリス、シロス)
2014年 「Invisible Islands」キクラデス・アートギャラリー(エルムーポリス、シロス)
2014年 「Open Studios」G.& E. ヴァティス・アートギャラリー(エルムーポリス、シロス)
2010年 個展「Testamento」チェントロ・フィラルモニコ・コミュナーレ(サヴォカ、シチリア、イタリア)
2010年 「35 Artists Exhibit Their Works on Global Poverty」テクノポリス(アテネ、ギリシャ)

 

挿絵を担当した書籍
2013年 『Rainworms』著:サムエレ・リヴォルネーゼ
2015年 『La Virgola』著:ラウラ・デ・ルーカ(ラ・ヴィータ・フェリーチェ社、イタリア)
2024年 『La Solitudine del Derviscio』著:サムエレ・リヴォルネーゼ

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