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"Constellation~想起されつづけるもの~

イトウナホ

2022年4月12日〜5月1日

ある時から、密室で捧げられるようになった祈りは、人を自然であることから遠ざけてゆき、 次第に幾重もの意識の層をまとった一個の個人にしていった。それは、得も知れぬ大きな流 れの中で、ある地点では必要なことだったのかもしれない。やがて自己自身との関係を深め ていった個人の中に生じた亀裂は、柔らかくその裂け目を広げ始め、彷徨いながらも彼、彼 女を、ある一つの物語へと導いてゆくだろう。その時、彼、彼女が頼りにしたのは、自らの 心臓の鼓動と、同時に響いていた隣人の鼓動、幾多の生き物たちの蠢きと、木々のざわめき、 風の声と水の肌触り、揺らめく陽の光。それらの中であなたは、日常のあらゆるささやかな 営み、幾つかの偶然であった出会いを思い起こし、やがてそれらにある繋がりを持った意味 を見出してゆく。それは、「私」というものが世界に含まれていることを理解することかも しれない。

“Constellation”とは、「星座」を意味する言葉だが、空のあまたの星々が喚起させる物語のよ うに、偶然であった様々な小さな点の様なものや出来事が、時空を越えて繋がり、彼、彼女 にとってのある固有の物語を見出してゆくその営為を表すキーワードです。この言葉は、 C.G.ユングが臨床心理学において、人が、あるがままの状態や自らの運命に対して“Yes”と 言いうるために非常に大切にしたものであり、その後日本へも思慮深くもたらされ、また、 私のもとへも、真摯な可能性として、やわらかな光として、届けられました。そして、この ある固有の意味を見出してゆく営為、“constellate”することは、恰も私の絵画の制作過程そ のものの様にも思われました。そこから生み出されるはずのものは、単なる調和を目指すも のではなく、繊細な緊張を孕みつつ、新たな繋がりを見出し続ける星座のようなものである に違いない。私は、私の描き続ける小さな星座のようなものが、誰かの固有の星座と繋がる ことができると信じて、この展覧会のタイトルでもある言葉を大切に思っています。

 

イトウナホ

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  色彩という形のないもの、それだけでは意味をなさない形、決して何かの境界ではない祈り に似た線、それらが語り始めるもの、それらが交錯し続けることによって、新たに生まれる 絵画の言葉。しかしそれは、人としての最も原初的なリアルにたどり着くための道程かもし れない。イトウは、より深い絵画言語の追求を可能にする素材として、美術大学で日本画を 学び、岩絵具、麻紙、膠、箔、墨などの、自然からの恩恵であり、伝統的と言われる画材に 親しんできた。また、それらの生きた繊細な性質に耳を澄ませることによって、時に気づき をもたらされ、時に裏切られ、再び光を見出しながら、彼女の探求を続けている。

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